■facegookでお友達になっていただいている高杉仁之さんから教えていただきました。『
凹凸を楽しむ 東京「スリバチ」地形散歩』(著・皆川典久、洋和泉社)。来月に発売されます。著者の皆川典久(みながわ・のりひさ)さんは、「
東京スリバチ学会」の会長です。2003年に、GPS アーティストの石川初さんとこの「東京スリバチ学会」を設立されました。東京の大地がつくりだす「谷地形」に着目したフィールドワークを東京都内で活動を続けておられます。この本は、その「東京スリバチ学会」の活動の成果です。
■さて、この本のタイトルにある「スリバチ」とは何か。一部の皆さん以外は、頭のなかが「?」ではないかと思います。「東京スリバチ学会」のブログでは、このスリバチを以下のように説明されています(2003年01月31日のエントリー)。
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東京スリバチ学会とは、東京都心部のスリバチを観察・記録する目的で、去年の春にいきなり設立されたグループです。
我々が「スリバチ」と呼ぶのは、台地に低地が谷状に切れ込み、3方向が斜面に囲まれたような形状の地形になっている場所のことです。
江戸/東京は、武蔵野台地と荒川低地にまたがる形で発達してきました。江戸時代、台地上は武家屋敷や寺社、低地は町家や農地、というように、特徴的な地形を利用した土地利用が行われてきたことはよく知られています。
この地形/土地利用は、現代の東京の土地利用にも反映されています。特に、台地と低地が入り組んでいる都心部では、いわゆる山の手と下町とが交錯して接し、都心に路地裏の長屋的空間が出現したり、急峻な斜面と街路や住宅との拮抗状態が観察できたりして、東京の都市風景に陰影と趣を与えています。
近年、変化し続ける東京の都心にあって、こうしたスリバチもその姿を変えつつあります。都心部の再開発によって、物理的に消滅した「スリバチ」もあります。
私たちは、変わり続ける都市のダイナミズムと、歴史の痕跡を留める「地形」を観察しつつ、東京の意外な「容貌」を記録しようと考えています。
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■「東京スリバチ学会」の皆さんは、三方向を囲まれた谷、すなわち普通の谷を「2級スリバチ」と呼び、四方向を囲まれた谷を「1級スリバチ」、ないしは「真性スリバチ」と呼んでいるようです。「そんな四方向を囲まれた谷?」、「大地の凹みみたいな谷があるのか?」と疑問をお持ちの方がおられると思いますが、東京にはそのような「スリバチ」があるのです。たとえば、写真家masaさんの『
Kai-Wai散策』の「
荒木町小盆地景」というエントリーをご覧ください。この「一級スリバチ」は、東京都新宿区荒木町にあります。これは、「東京スリバチ学会」の活動に参加されたときの報告です。「元々は谷口(開口)のある谷戸だったものを、江戸期に、ダムを造って谷口を閉じたことにより、出来上がったもの」なのだそうです。
【『Kai-Wai散策』の関連エントリー】
荒木町階段路地景 /
荒木町段坂路地景 /
荒木町坂道景 /
荒木町界隈凸凹地図 /
段路地の粋
■もちろん、「東京スリバチ学会」のプログにも、東京の(東京以外もあり)様々なスリバチが報告されています。ぜひ、ご覧いただければと思います。ブログの「
フィルードワークレポート」で報告されています。
■さて、本書の内容ですが、以下の通りです。
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はじめに
東京広域MAP
本書の見方
I.「スリバチ」とはなにか――スリバチ概論
1)東京は谷の町
すべての坂はスリバチに通ず/東京にも7つの丘がある/冷え性の母なる地球
/「谷戸」と呼ばれるスリバチ地形/下町低地の微地形/埋没した谷
2)見えがくれする谷
スリバチコードで探す谷/地図に刻印された谷/窪む街角、地上を走る地下鉄
3)スリバチの法則と類型
地形と土地利用の関係/坂の上の集合住宅・坂の下の住宅集合/スリバチの第一法則と第二法則/法則性はどのように生まれたのか/スリバチの3類型/スリバチの等級
4)スリバチの楽しみ方
東京の魅力は谷にあり/スリバチの空は広い/水の歌を聴け/下を向いて歩こう
II.「スリバチ」を歩く〜断面的なまちあるきのすすめ〜
■都心にひそむ谷
1 スリバチが守る町(六本木)
2 谷あっての丘(麻布・白金)
3 4つの谷を探せ(四谷)
4 坂の下の路地(本郷)
5 谷のターミナル(渋谷)
■スリバチコードで巡る谷
6 東京遺産が並ぶ谷(雑司が谷)
7 丘の狭間の谷(碑文谷)
8 谷と谷の出会い(世田谷)
9 谷をわたる土手(幡ヶ谷・笹塚)
10 偉大なる窪み(大久保)
■住宅地の知られざる谷
11 町をデザインした谷(田園調布)
12 巨大スリバチ団地(赤羽)
13 台地の北・夕陽の西(成増)
■埋もれた谷
14 江戸を造った谷(日比谷)
15 下町低地の微地形を巡る(日本橋)
【コラム】
絵画で楽しむ、東京の地形 浦島茂世
スリバチの地下で見つけたかつての川 三土たつお
暗渠・川跡から見る東京 本田創
GPSがこすり出す微地形 石川初
東京のスリバチと階段 松本泰生
低地の微かな丘――新橋・烏森神社周辺 佐藤俊樹
おわりに 「書を捨て谷に出よう」
主要参考文献
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■この本の表紙の地形ですが、これは渋谷の地形だと思われます。渋谷は、歩いていると坂が多い街…という感じしかしませんが(東京以外の、たとえば関西在住の方はピンとこないと思いますが…)、多くの川が流れて谷をつくり複雑な地形ができあがっています。多くの川は暗渠になっています(『ブラタモリ』ファンの皆さんはよくご存知…)。複雑な地形だから、「東京スリバチ学会」の皆さんには大変醍醐味のある場所なのでしょう。ということで、表紙に使われているのかなと想像しています。下に、表紙とGoogleEarth から取った画像とを並べてみました。また、高低を強調した画像(南側の斜め上空からのもの)も貼付けておきます。凸凹がよく理解できます。
■さて、『凹凸を楽しむ東京「スリバチ」地形散歩』は、近代化・再開発によって不可視化されてしまった東京の凸凹地形を探索する楽しさを伝える本のように思います(あくまで推測ですが…これから発売で、まだ読んでいないものですから…)。しかし、それだけではないようにも思います。「東京スリバチ学会」の説明のなかにある、「台地と低地が入り組んでいる都心部では、いわゆる山の手と下町とが交錯して接し、都心に路地裏の長屋的空間が出現したり、急峻な斜面と街路や住宅との拮抗状態が観察できたり」、「都心部の再開発によって、物理的に消滅した「スリバチ」」などという部分からは、地形や地理だけでなく、社会学っぽい部分も多分に含んでいるように思うのです。
■ということで、この凸凹に関する社会学っぼいものを2冊あげておこうと思います。東京の凸凹地形は、歴史のなかで「山の手」「下町」という空間の差異を生み出してきました。そのあたりに注目して書かれたものが、『階級都市:格差が街を侵食する』(ちくま新書、著・橋本健二)と、『居酒屋ほろ酔い考現学』(毎日新聞社、著・橋本健二)です。橋本さんは、一貫して格差・階級・貧困をテーマに研究されている社会学者です。前者は読みかけ、後者はまだ手に入れていません。前者は、理論、言説分析、統計、そして自らのフィールドワークからの成果をもとに、東京の「下町」と「山の手」の間にある格差を論じたものです。もちろん、この新書で扱う「下町」とは、『凹凸を楽しむ東京「スリバチ」地形散歩』が扱うエリアを超えて、ずっと東にある台東区や墨田区などの本来の「下町」が中心になるのですが、両者を重ね合わせて読んでみたいと思うのは私だけでないはずです。また面白いことに、『階級都市:格差が街を侵食する』には、著者が「山の手」と「下町」をフィールドワークしながら通った居酒屋探訪のような章も含まれています。このあたりに絞って書いたものが、まだ手に入れていない、後者の『居酒屋ほろ酔い考現学』なのだろうと思います。酒呑みの私としては、ぜひとも読んでみたいと思っています。この2冊については、また別の機会に改めて紹介したいと思います。
【追記】■『凹凸を楽しむ東京「スリバチ」地形散歩』出版記念イベントのお知らせです。「東京スリバチ学会」の「
スリバチブログ」にお知らせがアップされています。
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2/1に『凹凸を楽しむ東京「スリバチ」地形散歩』が洋泉社から発売されます!そして販売促進の一環として神田神保町の南洋堂書店4階で「スリバチカフェ」をやります。南洋堂の店長さんが趣味で作ってしまった東京地形模型を展示し、本の販売だけでなくマニアパレルのスリバチ関連グッズを販売します。期間中は会長が常駐している他、午後には副会長も店番をします。本を買ってくれた方にはタモリさんも持っている「スリバッチ」をプレゼント!お誘い合わせの上、お気軽に遊びにいらして下さい!!
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■東京にお住まいの皆さんが羨ましいな〜。趣味で作ってしまった東京地形模型…って、どんなの?
こんなの?あっ、スリバッチって
これなんだ。

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